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「――寄るな」
頭上から、低い低い声が聞こえた。今のって、もしかしなくても悠一の声か?
すげぇ怒ってる。何に?ドクトル?いや、たぶん違う。じゃあ俺?緋桜さんの話をしたから?いやいや、それくらいで怒るような悠一じゃねぇ。
…………なら、自分自身に?
きっかけが俺の発言だっていうのはわかる。けど、抱きしめられて密着している体から伝わってくる、不安感。
まさか、俺が緋桜さんに憧れているからって何か余計な、アホなことを考えているんじゃないだろうな?俺が悠一よりも緋桜さんを好きになるかもだとか、そんなくだらないこと。
有り得ねぇ。でも、そんな感じのことで不安になっているんだと思う。妙にネガティブなところがあるし、ヘタレだしな?
なら、俺が安心させてやらねぇと。俺は今もこれからもずっと、悠一だけを愛し続けるんだって。
大きく息を吸って、魔法の言葉をあげよう。ついでに、ドクトルに見せつけるためにもキスくらいしてやろうかとモゾモゾ顔を上げたら。
「っ、ごめん。ちょっと頭冷やしてくる。ドクトル、検査を続けてくれ。手を出さないって信じてるから、頼む」
って、離れた。寒い。悠一の体温が離れて、寒い。どうして?「信じてる」って、あんなに嫌がっていたドクトルに恋人の俺を預けるのか?どっか行っちゃうのかよ?
ショックすぎて開いた口が塞がらない俺の肩を、血が滴る腕を押さえるドクトルの方に押してうつむきながら1歩下がる悠一。
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