初めての

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 1人にしないために。「あの子」が誰か、どんな人かも知らねぇけどさ。悠一にとって友達だとかそういう、良い関係の人じゃあねぇんだよな。 「じゃ、くれぐれもこんなところでセックスなんかしないようにねぇ、たぶん。子猫ちゃんも、絶対にだめだから。これだけはマジで。ネコヤンのために、ね。行ってきまーす」 「なっ!?し、しねぇよ!いってらっしゃーい」  悠一は、何も言わない。すっかり大人しくなって、口も閉ざしたまま窓から飛んで出て行ったドクトルを見送る。大きな黒い翼をはばたかせて高く飛び上がったドクトルは、すぐに見えなくなった。  オオコウモリの擬人化種のドクトル。いいなぁ、空を飛べる翼があって。空を飛ぶって、ちょっと夢だよなぁ。  ベッドを見つけた時にドキッとしたけどさ、しねぇよ。させねぇよ。……ちょっとは気になるけどさ。し、しねぇからっ!  それより、悠一が気になる。  まるで借りてきた猫。窓を閉めて鍵をかけて、カーテンも引いて。出入り口の鍵もかけるとソファーに体を沈める。  ちょっと、好奇心でこの部屋の中を散策してみたいんだけど。悠一がジッと、無言で見つめて手招きをするから。  ソファーの前まで駆け寄った俺は、アルコールの匂いがする腕を悠一に伸ばした。
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