冷たい指輪

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 いや、それにしてはタイミングが早すぎるしな。とか、なんとか深呼吸を繰り返して考えている間も着信音は鳴り続けていて。  本当に、誰だ?やけにしつこい。ボウっと、やっと画面が見えた。その名前に慌てて、電話に出る。 「…………も、もし――」 『今すぐ裏門の前に出てこい。今、大学じゃろ?すぐに迎えに行く』  つながった途端に吐き捨てて、すぐにブツンッと切られた。電話の相手は言わずもがな、この街の市長様こと、擬人化種のトップにあらせられる真藤香さん。  一時的とはいえ、感情任せに力を解放したし、バレたか。俺が今、この大学にいるってわかっているようだったし。  仕事を放棄して裏門に来いか。そのまま、俺か香さんの家に行ってお説教か?なら、もれなく市長の秘書兼、香さんの恋人になった緋桜がついてくるな。  どうする、素直に何があったのかを白状するか?長い長い時を生きてきた香さんなら、俺が何も語らなくても悟りそうだな。 「はぁ」  もう、溜め息しか出ない。シオンのこと、俺にはどうすればいいのか、今の俺にはわからない。だから、俺は足を踏み出す。  香さんが指定した裏門に向かって、戸締りだけはちゃんとして。脱いだ白衣を脇に持って。拳を握り締める。  授業中なのか、静かな校内の廊下を歩く。グッと硬く握りしめられた左手の薬指に、幸せの証は――ない。
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