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――服がない。から、人間の姿になれない。どうしよ。
大学の授業は諦めるとして。家に帰って服を手に入れる?家の裏に、何かがあった時のためにって合鍵を隠しているんだけどさ。
ほんの数秒でも、全裸の――しかもケツから血と白濁を垂れ流した――男が玄関のドアを開けるとか。高確率で見つかって通報されるな。
それに、俺の行動を読んで悠一が先回りしていないとも限らねぇし。あー、家はやめよう。
「ニャー」
ユキの時はしゃべれないし。店長に匿ってもらう?あ、今日は定休日だった。店長の家は知らねぇし、連絡を取ろうにもケータイは上着のポケットだから持ってない。
じゃあ香さん?いやいやいやいや、あの人はこの街の市長様だし。香さんや秘書の緋桜さんには俺だってわかっても、白猫が市役所の中に入るのはマズイよなぁ。
ぐぬぬぬ。うーん。仕方ない。頭を冷やすためにあそこに行くか。
と、とりあえずの行き先を決めたのが。保健室の窓から飛び出してすぐに失速して、敷地内を歩いていた時。
だって体中が、ケツが痛ぇんだよ。そんなにずっと走って行けるかよ。裏門から大学を出て、南へ。ちょっと遠いけどさ、俺にはもうそこしかないから。
「…………ニャー……」
足が止まった。振り向くものか。奥歯を噛みしめ前足を踏み出して、また歩き出す。1歩、2歩、3歩、4歩……
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