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若い男。俺と同じか、少し下くらい。一言で言うなら、イケメン。学校で女子が放っておかない、バレンタインデーが大変になりそうなくらいの。下手すればモデルだな。
ぼやけた視界でも、それがわかるくらい綺麗だって思った。まぁ、ずっとオッサンばっか見てきたからな。
緋桜さんも、スーツが似合う格好いいイケメンだけどさ。こいつはまた違った感じで、偉そうなくせに儚い感じがして目を惹きつけられる。
「あれ?なんだ、目を覚ましてたのか。体が冷たくて全く動かないし、このまま死なれて処分が面倒くさくなるのかと思ったんだけどな。案外しぶといな。ゴキブリみたいだ」
男の膝から下が見えねぇ。どうやら俺は、テーブルか何かの上に敷いた毛布にくるまれているらしい。
真っ赤と、温かさはこの毛布のことか。どうやらこの男は、俺をあの墓場で拾ったらしい。なんで死にかけの、しかも飼い主がいたってわかっている猫を拾ったんだよ?
男がかがんで、顔が近づいてくる。いい顔なのにもったいない仏頂面。俺と目が合うとフッと笑って、俺の顎の下を撫でた。
いきなり頭を撫でないあたり、常識人。あー違う、俺をゴキブリなんかと並べやがったから超最低人。誰がゴキブリ並みだ!
言い返してやりてぇが、弱りきっている俺は睨むこともできねぇ。目を開けて、この、どこの誰かもわからない人間の若い男を見つめることしかできねぇ。
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