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――たらふく食って、すぐに寝た。どこからか漂ってくるいい匂いと、ジュワッジュッという何かが焼ける音で目が覚めて。
モゾモゾ。あ、動ける。真っ赤な毛布の中で立ち上がって、いい匂いと音のする方に眠気眼を向ける。
あの男がいた。キッチンで、慣れた手つきでフライパンを振っている。カーテンが閉められているということはもう夜か。晩飯を作ってんのか?
よく見ると流し台にはすでに作っているギョーザとスープ。「よっ」と掛け声が聞こえ男がフライパンを振ると、白っぽいものがフライパンの上を舞った。
波のように舞い上がったものはそのまま、クルッとフライパンの中に吸い込まれる。それを数回繰り返し、男が「よし、こんなもんか」と火を止める。
「ネギチャーハンと餃子セット、完成。さて食う……え?あっ、うわぁぁぁぁぁっ!?な、何でお前、こんな所に。い、いつの間に起きたんだよ……」
「ニャー」
あ、すまん。つられて、気付いたら俺、流し台にチョコンと座って見てた。いや、チャーハン作ってる時の手際があまりにも上手くてさ、いい匂いだし。
もしかして餃子も手作りか?その隣の卵スープも、市販のお湯を注ぐだけのやつじゃねぇな。けど卵はまるで薄い羽衣のようにマグカップの中で揺らめいている。
食ってみたい。美味そう、ジュルッ。今すぐトイレにでも行ってくれたら、一口だけでも味見してやるのに。あぁでも、美味かったら止まらなくなるかも。
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