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悪いが急いでいる、大事な指輪を探しているんだと伝えて、また歩き出す。
正直、ゆったりはしていられない。早く指輪を見つけてシオンに会いたいというのもあるが、それ以上に、動悸とめまいが。
俺にとって研究所はトラウマがある最悪の場所だ。前回、シオンの検診の時はシオンのことで頭がいっぱいで気が反らせた。
だが今回は1人だ。嫌でも、昔のことを意識してしまう。こめかみを、嫌な汗が伝い落ちる。
早く、早く。焦れば余計に見つけづらくなるだろうが、焦らずにはいられない。せめて、千川原と遭遇はしたくないな。
いつかは千川原とも向き合って、過去を乗り越えなければ。千川原にとってはずっと、一部の記憶喪失。あの日、1日だけ思い出せないという非常に気持ち悪いもの。
千川原は、その1日をすっかり忘れていることさえも気づいていないんだがな。香さんが強い力を使ってそうさせた。
だが、それでは千川原の内に秘めるヤバいものを封じているだけに過ぎない。いつか思い出す。人為的に忘れさせられていたということに気付いて復讐を恐れるより。
俺は、千川原との決着をつけなければならない。千川原のために、俺のために。それから、シオンのために。
だがあいつには、爽やかな好青年とは真逆のおぞましい別人格がある。向き合っても、わかり合うのはなかなか骨が折れそうだな。
って、フラグか?そんなことを思っていたら必ず、現実になるんだよなぁ。
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