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あてがなくても歩き続ける。行くあてがないんだから、方向音痴も関係ない。進むほどに変わる景色がほとんど見たことのない景色でちょっと焦る。
かまわない。あとは少しでもあの子の匂いを感じ取れれば。その匂いをたどって、匂いが強くなる方へ進めば巡り合えるはず。
どこだ?
これ以上シオンが傷つく姿を見たくない。見なくても、誰にも傷つけさせない。俺が守るから。守りたいから。
まさかこの俺が、この歳にもなって本気の恋をするとは。それも、16歳も年下の男相手に。
でもなぁ、これが現実なんだよなぁ。その証拠に、あの子の体からにじみ出るあの甘い匂い。俺を誘う匂いを強く感じるということは、それくらい好きだってことだ。
「ん?ここは、病院……?いや、でも匂いが強くなっているのはこっちか……」
鼻をひくつかせながら歩く不審者の俺。不意に感じた、ほんのわずかなあの匂い。立ち止まるとそこは大きな病院。
ケガをしていたし、治療するために入った?けれど匂いは病院の出入り口だけで、そこから別の道へと続いている。
人間じゃない、擬人化種だから諦めたのか。なんにせよ、俺はその匂いをたどってまた歩き出す。
スンスン。不審者が通ります。スンスン、スンスン……
色んな道を通った。進むにつれて匂いがはっきり、濃くなっていく。やがて俺は、ある場所で行き止まり。ここか。
ん、んんー?ちょーっと、嫌な予感しかしないんだけどなぁ。
見覚えがある場所。もしかしたら、別れて多少なりとも傷ついた心を癒しに、ネコ好きのお嬢ちゃんが来ているかもしれない。
けれどここにシオンがいる。なんだ、バイト先ってことか。やっぱりここなんじゃないか。
俺は大きく深呼吸をして、奥から「ニャーニャー」聞こえるドアに手をかけた。
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