ユキとシオン

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 …………目の前に先生がいる。1番高いキャットタワーのてっぺんでグッタリ寝ていた俺を見上げ、開いた口が塞がらないといった様子。  まるで初めて出会った時のようだな。あの時はあんた、たしか「絶対に飛び降りてくるんじゃないぞ」とかアホなことを偉そうに言っていたっけ?  飛びついてやろうとしたらビビッてさ、いい歳した大人が、腰抜けだなって。  けど今は違う。絶対に飛び降りようとは思わねぇ。先生はもう、俺が白猫のユキで大学生のシオンだってわかってる。  というか動けねぇ。キャットタワーのてっぺんで逃げ場がねぇし。どんな華麗なジャンプを披露しようにも、今の俺は弱っていて飛距離が伸びない。したがって、確実にキャッチされる。  1人でここに来た理由はわからねぇが。入ってすぐにキョロキョロしていたあたり、俺を探していたんだろ。俺、猫カフェでバイトしてるって言ったし。  だから店長に「すみません。ここでバイトしてると思うんですが、シオンって男の子はいますか?」って聞いたんだ。  俺の事情をよくわかってんだからさぁ。店長もそれでそのまま、いつもの接客スマイルでお断りして帰してくれればよかったのに。  なんで俺に目を向けたっ!?  今日は体が不調だからと接客は半分くらいって約束で、せっかくゆっくり休んでいたっていうのに。なぜ「どうしよう?」って目で俺を見たんだ!  バレるだろう!おかげで先生も俺に目を向けて、目が合っちまって。先生は俺から目を反らすことなく、キャットタワーの真下まで来た。  バレた!完全にバレた!!先生は俺の右前足に巻かれている白い包帯に気付いて、口を開く。 「シオン……」
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