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「ユキちゃん、どうするの?この人は怖い人じゃないのよね?具合も悪いんだし、今日はもうこのまま上がっていいわよ?」
店長、悟らないでくれ。
さすがに俺もわかったから。独特なあの匂いの正体。俺が先生を、先生が俺をどう想って見てくれているのかを。
俺の口は引き結ばれたまま動かない。何を言えばいい?だって、こんな……どうしたらいいのかわからねぇよ。とりあえずわかるのは、先生が俺を必死になって探してくれたってこと。
嬉しい。顔がカァッと熱くなるくらい嬉しくて、だんだん心拍数も上がってきて、口元が震える。
だめだ。店長もいる前で、先生がいる安心感に気が緩んで泣きそう。腕で顔を隠しても隠しきれてねぇんだろうなぁ。
やがてしびれをきらした店長が、俺を先生に献上した。肩を押して、先生の腕の中へ。
開かれた両腕の中にすっぽりと包み込まれる俺の体。あぁ、先生の匂いが濃い。あったかい。ゆったりとした心臓の音が、温もりが心地よくて。俺は目を閉じて先生の背中に両手を回す。
ギュッ。強く抱きしめられてちょっと痛いぐらいだが、嬉しい痛み。俺も力一杯、ギューッて抱きしめ返す。
「シオン……」
「先生……」
「んんっ!ん、んーっ!あー、とってもイイ雰囲気のところごめんなさいね?正直に言うわ。帰れ」
牙を剥いた怒りのジャガーが降臨。こめかみに青筋を浮かべた超笑顔で俺の肩をポンポンした店長、ライガーの先生がすくみ上がったぞ。
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