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「なあ。どうすればいい?」
困り顔を向けて聞いてくる人物に大きくため息をつく。
「持っている剣を振り下ろせばいいんです。勇者様」
「えー。でも、可哀そうじゃん。かわいいのに」
この世界で最弱のモンスター、スライムを前に殺すのをためらう勇者にがっくりと肩を落とす。
「いいですか、勇者様。そのスライムは今すぐに倒さなくてはなりません」
「え? そうなの」
今まで何度となくエンカウントし、退治に失敗してきたスライムと同じで水色の透明な体をしたモンスターがなぜ、他のスライムとどう違うのかと疑問を持つのが当然だ。
「このスライムは放っておくと大変なことを引き起こします」
真剣な表情に引き込まれるように唾をごくりと飲み込む勇者。
「このスライムは病原菌を持っているのです。それは人間に感染するタイプのものです。わかりやすくスライム菌と呼びましょう」
「何か、やばそうだな」
こんなに単純に信じていいのかと不安に思いながらも続ける。
「スライム菌はスライムを触った人間から人間へと感染していきます。潜伏期間は長く一か月。その間に感染した人間と接触した人間はスライム菌を移され、また別の人へとうつします。そうやって何人にも感染し、村人全部が感染し終わったころに発症し、腹痛、下痢から始まり、高熱が続き体中に湿疹が出て、湿疹が全身に広がったときに苦しみながら死んでしまうんです」
魔導士のローブを翻し、先端に水晶のついた杖の先をスライムに向けた。
「そうだったのか!」
驚きの声を上げる勇者。
「まるでペストを広げたネズミみたいだな」
「そうです」の後に、嘘ですがと心の中で言い切った。
「ですから、今、このスライムを倒さなければ人間の村が一つ無くなってしまいます」
「それは大変だ」
「さあ、今こそ、その剣を高く掲げて振り下ろしてください。スライムならそれだけ退治できます」
「わかった」
頷くと勇者は言われたとおりに剣を高く掲げる。
ここで重力に従って剣をおろせば、スライムに当たり、退治できる。小さな子どもでもできることだ。
「エイ!」という掛け声とともに剣を振り下ろす勇者に、やっと、経験値が手に入ると思った。
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