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「戻ったぞ」
「早いですね」
勇者が川に向かって行ってからまだ、10分もたっていない。川まで行って帰っても、もう少しかかるはずだが、気が変わったのか?
焚火から勇者へと視線を移した。
「勇者…様? ……隣のそれはなんですか?」
立ち上がると勇者の隣に立つモノを指さしながら言った。
「ああ。こいつか。薬草よりもこの動物の肝の方が、確か、疲れに効くと思い出してな。連れてきた」
勇者は何でもないことのように、自分の隣に立つ野生のクマを指さし、白い歯を見せて笑った。
「……で、どうやって肝を取り出すつもりですか?」
クマから視線を離さずに、下に置いた杖の位置を足で確認した。
クマは、勇者よりも大きく焚火の火に照らされた毛は黒々としてまだ若いクマだと思わせた。
「勇者様。離れてください」
後ろ足で器用に立つクマは前足をあげ、勇者をなぎ倒そうとしている。勇者よりもよっぽどうまく敵を倒せそうだ。
「どうしてだ?」
「そのクマを倒すのは、あなたには無理でしょう?」
「そうかぁ?」
暢気な返答に、イラっとした。今までモンスター界最弱のスライム一匹すら倒せない勇者に野生のクマが倒せるわけがない。モンスターほどではなくても、力は人間と比べれば十分強い。
「そうだ。薪を一本貰うぞ」
クマは我慢できないと言った感じでグルルルルと低い唸り声をあげて勇者に襲い掛かった。右前足が振り下ろされ勇者の死体が地面に転がっ……らなかった。クマの攻撃と同時に勇者が薪を拾うためにかがんで避けていた。
ううー!
クマの怒りが伝わってくる。自分も今、理由は違うが同じ気持ちだ。今、どれだけ危ない状況なのかわかっていない勇者にいら立っている。
「勇者様。早く離れてください。私が追い払います」
クマが勇者を襲おうとした瞬間、足を使って杖を立たせ手に取った。クマももう一度勇者に襲い掛かろうと、前足で地面を何度も蹴っている。クマは前足で勇者を薙ぎ払う。
「追い払ったら肝がとれないだろう」
またしても、勇者は一歩前に出てクマの攻撃を躱した。
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