第二章 キャンプ 夜

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「殺さなければ肝は取れませんよ。どうやって殺すつもりですか?」  杖の先端に付いた水晶をクマに向ける。ここで強い魔法を使うと近くにいる勇者にまで被害がでる。それだけならまだしも、一番クマを追い払いやすい火の属性の攻撃をした場合、周りの木々に燃え移り、森林火災になる可能性もある。かといって力を加減しながら一瞬でクマを殺すのは難しい。驚かすくらいの攻撃をして追い払うのが一番いい方法だ。 「そんなの。こうすればいいだろう」 「え!?」  勇者は、意外なほど素早くクマの頭の横に移動して持っていた薪でクマの頭を叩いた。クマは強い衝撃に頭から崩れ落ちて息絶え……。 「あれ? 何で死んでないの?」 「あんな。攻撃で死ぬわけないでしょう。自分の弱さ自覚してないんですか!」  薪はしっかりとクマの頭に当たった。当たったが、力が弱かった。頭を地面につけたが、すぐに頭を上げてぶるぶると頭を振ると何事もなかったかのように勇者に狙いを定めて地面を蹴っている。 「えー! おれそんなに弱かったの!?」 「………もっと早くに気づいてください」  がっくりと肩を落とす勇者にやっと、自分の弱さに気づいてくれたかと思ったが、今は、この状況をどうにかするのが先だ。小石を拾うとクマにぶつけて意識をこちらに向けた。 このままでは勇者はモンスターではなくただの野生のクマに殺されて冒険が終わってしまう。そんな笑い話以下の事態は絶対に避けたい。 「火の魔法をぶつけて追い払います。勇者様はその隙に逃げてください」  クマは勇者からこちらに興味を移していた。こちらの殺気を感じ取り攻撃をしてくることがわかっているようだ。 「フレイム」 呪文を唱えると杖の水晶から火の塊が現れてクマに向かって飛んで行った。 「あ!」  クマは素早くよけてこちらに向かってきた。クマの走るスピードは人間よりもずっと早い。焚火を避けてきたとはいえ、もとから距離は近い。あっと言う間にクマが目の前に来て腕を振り上げる。 「しまった」  あまり強い攻撃では周りに飛び火して最悪、森林火災を起こすと思い、攻撃が弱くなっていた。  こんな、物語のプロローグ的なところで死ぬのか。納得いかないと思うが、反撃が間に合わない。目を閉じて攻撃に耐えようと身構える。
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