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「なあ。クマを倒したくらいじゃ。強いと言われないのかな?」
またしても暢気な声が近くで聞こえた。
「な……何をしているんです?」
目を開けて、一瞬、状況を理解できなかった。あの弱いと思っていた勇者が右手に剣を持ち,
すぐ目の前に立ち上がったクマの心臓に突き立てていた。
「何って、クマ退治」
何でもないことのように言ってのけて、勇者は剣をクマから引き抜いた。クマは完全に死んだらしく剣を引き抜かれると同時にどさっと倒れた。
「あなた。そんな力があるのに、なぜ、今までスライム一匹倒せなかったんですか!?」
もう無事だという安心感からとクマを一撃で倒せる力がありながらモンスター退治から逃げていたのかと思うと自然と責める口調になっていた。
「だって、モンスターって、響きがほら、何かかわいいっていうか」
「はあ?」
うーんと腕を組んで考え込むようにして言う勇者。
「ちょっと待ってください」
状況を整理する時間が必要だ。
「つまり、今までモンスターを倒せなかったわけではなく、倒さなかったということですか」
「いや。倒そうとはしたよ。倒そうとは。でも、顔見ると力が出ないというか、手元が狂うっていうか………」
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