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彼と初めて会った時、妙な既視感を覚えた。
まぁ、そんなことあり得ないよね~。
だって、
わたしは2年前以降の記憶がないのだから…
2年前、中学3年の夏、わたしは引っ越すことになった。その道中に事故にあった。事故で今までの記憶がすべて消えた。戻る可能性は0に等しい…。
わたしが教えてもらったのは このくらいだ。
わたしは無理に思い出さなくてもいいと思ってる。
なぜなら、今の生活がとても幸せだからだ。
1番と思える親友がいる。初めて好きになった彼氏、奏太がいる。この上なく幸せなことだろう。
だが、たまに思うことがある。2年前のわたしにも そのような大切な人がいたのだろうか。その人たちは今どうしてるんだろう。
たまらなく胸が苦しくなった。
でも、今のわたしには何もできない。だから、考えないようにした。
夏休み、彼に花火大会に行こうと誘われた。
花火なんて初めてだ~!ってわたしは喜んだ。
そんなわたしを奏太は優しい目で見ていた。
花火大会当日。
わたしは母に浴衣を着つけてもらった。
「かわいい浴衣だね~ だれの物なん?」
母は少し涙ぐんだように見えた。
「あ、あぁ。お母さんのよ。」
「へ~!そうなんだ!」
わたしは母が涙ぐんだ理由をこの時はまだ知らなかった。
「奏太!おまたせ!遅くなってごめんね!」
慣れない浴衣のせいか、待ち合わせに少し遅れてしまった。
『あ、あぁ。俺も今来たとこ…ろ……』
彼は一瞬驚いた顔をした後、涙ぐんだ。
『お、おまえ、その格好…』
「えへへ。どう?かわいいでしょ~」
『うん。すごく…すごく かわいい よ』
彼は そっぽ向きながら、わたしの手を握って歩き出した。
「(やっぱり奏太の手は安心するな~)」
この時のわたしは、大切なことを忘れていることにまだ気づいていなかった。
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