第1章 忘れた過去

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彼と初めて会った時、妙な既視感を覚えた。 まぁ、そんなことあり得ないよね~。 だって、 わたしは2年前以降の記憶がないのだから… 2年前、中学3年の夏、わたしは引っ越すことになった。その道中に事故にあった。事故で今までの記憶がすべて消えた。戻る可能性は0に等しい…。 わたしが教えてもらったのは このくらいだ。 わたしは無理に思い出さなくてもいいと思ってる。 なぜなら、今の生活がとても幸せだからだ。 1番と思える親友がいる。初めて好きになった彼氏、奏太がいる。この上なく幸せなことだろう。 だが、たまに思うことがある。2年前のわたしにも そのような大切な人がいたのだろうか。その人たちは今どうしてるんだろう。 たまらなく胸が苦しくなった。 でも、今のわたしには何もできない。だから、考えないようにした。 夏休み、彼に花火大会に行こうと誘われた。 花火なんて初めてだ~!ってわたしは喜んだ。 そんなわたしを奏太は優しい目で見ていた。 花火大会当日。 わたしは母に浴衣を着つけてもらった。 「かわいい浴衣だね~ だれの物なん?」 母は少し涙ぐんだように見えた。 「あ、あぁ。お母さんのよ。」 「へ~!そうなんだ!」 わたしは母が涙ぐんだ理由をこの時はまだ知らなかった。 「奏太!おまたせ!遅くなってごめんね!」 慣れない浴衣のせいか、待ち合わせに少し遅れてしまった。 『あ、あぁ。俺も今来たとこ…ろ……』 彼は一瞬驚いた顔をした後、涙ぐんだ。 『お、おまえ、その格好…』 「えへへ。どう?かわいいでしょ~」 『うん。すごく…すごく かわいい よ』 彼は そっぽ向きながら、わたしの手を握って歩き出した。 「(やっぱり奏太の手は安心するな~)」 この時のわたしは、大切なことを忘れていることにまだ気づいていなかった。
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