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エルフランという男
小鳥達の囀〈さえず〉りで、目が覚めた。少しだけ開けていた窓を押して大きく開け放ち、深く空気を吸い込む。
今日も、いい天気だ――。
軽く朝食を食べ、熱心な騎士が集まる早朝の訓練所で、剣の稽古をつけてもらう。
ガンッ! ガツッ! と鈍い音を響かせ剣を振るうと、春だというのに汗が舞った。相手は、学院時代からの古い友人の一人で、最近騎士団の中で頭角を現してきているようだ。
「エルフラン! 相変わらず、無表情筋を鍛えているな」
無表情筋が何かよくわからないが、打ち合った後、マキシムはそう言ってタオルを投げて寄越した。学院時代の友人達は、私のことをよく知っているので、気を遣わなくていい分楽だった。
「昨日は、ルーファス様がこちらにいらっしゃってな。手合わせしてもらったんだが、あの方は見かけによらず豪(えら)い手練だな」
その話は、初めて聞いた。視線で続きを促すと、マキシムは一つ頷く。
「昨日は、高等学院が休校になったとかで、マオが暇潰しに連れて来られたんだ。俺も手合わせしてもらったが、見くびっていたことを差し引いても、あっという間にやられたよ。神学校で学ばれたとおっしゃっていたが、神学校って坊主になるところだろう? アルジェイドも相当だが、見た目で人を判断してはいけないという見本だな」
見くびっていたから、一瞬だったのだろう。用心していれば、それなりにもっていけたはずだ。余程、ルーファス様に心酔したのだろう。マキシムの顔は、仲間を手放しに褒める時のように、興奮で上気していた。
「ルーファス様はお強いが、奢ることがないことが素晴らしい」
「お前、仕事以外でもしゃべれたんだな」
マキシムは、ぽかんと口を開けた間抜けな感じの顔になって、驚く。
私のお喋りなどどうでもいい。無言でその場を去ったが、いつもの事なのでマキシムも気にしていなかった。
汗を流し、クリストファー殿下を迎えにいく。時間になれば執務室にいらっしゃるが、ルーファス様に会えるのは、この時間だけだから、余程のことがない限りは迎えにいくようにしている。
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