最強のアドバイザー

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 それから、時折エルフラン様を街で見かけることがあったけれど、声は掛けなかった。どうお礼を言っていいのかもわからなかったし、時間が経つと、もう覚えていないだろうと思えたから。  ルーファス様から、相談役としてエルフラン様を紹介されたとき、僕のことを知っていて、驚いた。 「ベレツ子爵のご子息ですね。最近ルーファス様と仲がいい青年が、菓子の製作にすぐれていると聞いております」 「説明が楽でいいね」  ルーファス様の友人関係として、調べられていただけだとわかって、少しだけガッカリしてしまった。当然の事なのに。僕にとっては、危機を救ってくれたヒーローだけど、エルフラン様にとっては、些細な出来事だったのだろう。  エルフラン様は、あまり喋らない。そういうと、彼を知っている人は、あまり? と不思議そうに首を傾げた。寡黙というのは彼のためにある言葉だ。とはいえ、仕事の話の時に、言葉を惜しんだりしなかった。 「で、どういう形態をとりたい? ボランティアに近い形ならば、金のことは考えずに好きなものを好きなだけ作れるが……」 「いえ、それだと新たに何か始めようとしたときに、時間がかかってしまいますよね? ルーファス様のご好意を無碍にするつもりはありませんが、果物だってちゃんと取り引したいと思っています。定期的に仕入れることが出来るなら、安定した価格で売ってもらえますよね? 僕は、まだ信用がないので、それをルーファス様に助けてもらえたらと思っています」  商売は、信用が全てだという。が、家の名前を出すつもりがない僕には、それがなかった。沢山の人に僕のお菓子を食べてもらいたいけれど、やりたいことがそれで終わるとは限らない。満足いくようになれば、王都だけではない地方や他の国にだって店を出したい。 「いい顔だ――。私はそういう野望は好きだ」  エルフラン様は、僕の考えを肯定してくれた。てっきり、ルーファス様の希望にそうように、話を進めるだろうと思っていたから意外だ。 「本当にいいんですか?」  途中で駄目だといわれても困るから、念を押した。  エルフラン様は、無表情の中に少しだけ(本当に微かにだ)楽しそうな表情をみせた。 「ルーファス様は、お前の希望に添うようにと仰った。私もそれでいいと思っている。一年後に開店となるように進めていこう」
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