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「おはようございます、エルフラン」
いつまで経っても敬語が抜けないルーファス様だが、それも可愛らしい。成長して、身長だって高くなったし、子供のころとは違っても、ルーファス様は可愛らしいという言葉が似合っている。だが、そんなことは口にしない。気になさるからだ。
「おはようござます、ルーファス様」
クリストファー殿下は、几帳面だから時間に正確だ。私が着いた時には、もう一分の隙もなく、王族としての身だしなみを整えていらっしゃる。ルーファス様は、起きられる時は、庭で鍛錬をされているから、お風呂に入って、ラフな格好をしている。
「今日は少し遅くなる。先に食事をしておけ。眠っていてもかまわん」
ルーファス様は、早寝早起きだから、クリストファー殿下も遅くなる時は、忘れずに伝えるようにしている。遅くなると聞いたルーファス様は、少し目を伏せてから、クリストファー殿下に微笑む。寂しい気持ちをルーファス様は、口に出さないようにしているのだ。
「はい。あまり飲みすぎないようにしてくださいね」
今日は隣国の大使を招いて晩餐会があるが、ルーファス様は試験中なので、公務は全て免除されている。
「ああ。わかっている――」
二人が唇を交わし、離れがたく手を握りあっているのを横目にしつつ、侍女のマリエルに今週のルーファス様の予定表を渡す。
「ではクリス様、まいりましょう」
いつまで待っても離れようとしないクリストファー殿下を促すのは、実は楽しい。クリストファー殿下は、本当にストイックなまでに自分を律する人なのだ。自分にも厳しいから、仕事上でどれほど嫌味を言っても許されている。そのクリストファー殿下が、自分勝手を通すのは、ルーファス様に関することだけなのだ。仕事に行かなければならないのに、行きたくない、そんな気持ちが隠れて見えて、つい意地悪をしたくなる。時間は、まだ余裕があるのに。
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