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ルーファス様は、自分の顔の火照りが気になるのか、頬を触りながら、私に声を掛ける。
「エルフラン、クリス様をおねがいします」
「ルーファス様、来週はクリストファー殿下と小旅行ですね。それまで忙しくなると思いますが、ご心配されませんよう」
休養の前には、もれなく地獄のような仕事の日々がある。クリストファー殿下は、聖戦に望む殉教者のごとく崇高な使命感で、それに挑もうとしている。
クリストファー殿下がやる気になると、大変なのは周りの者達だ。少しのミスも許させないピリリとした雰囲気に包まれるからだ。
大臣たちは、この期間、クリストファー殿下の執務室には訪れない。神妙な顔をした補佐官達が、恐々やってくる。とはいえ、その期間に認められた補佐官は、昇進することも多いので、いい機会だろう。
クリストファー殿下が認めた者達は、皆、優秀だ。クリストファー殿下の周りは、彼が認め、しかも気の置けないもの達という少数精鋭で固めている。あのダリウスだって、仕事に関しては、右に出るものがいないほどの優秀な男なのだ。外交は、天職といってもいいだろう。
「はい。楽しみに待ってます」
目尻を下げて笑う姿は、天使のようだ。
「お前、本当にルーファスの前だと、別人だな」
「またそれですか。貴方のお妃様だと理解していますが」
執務室は、離宮から少し離れているから馬車を使う。私は、一緒に乗って、連絡事項などを伝えるようにしているのだが、時折、そんなことで時間を使う。
「早く結婚しろよ。そしたら、懸想してるとか言われないから」
無茶をいう主に顔をむけると、さすがに付き合いが長いだけあって、無表情でも汲み取れるようだ。
「怒るなよ」
怒っている……のだろうか。どちらかというと、困惑してしまうのだ。私は、ルーファス殿下にそういう気持ちを持っているわけではないと思う。仮定するならば、ルーファス様が私に『抱いて欲しい』といっても私はその願いを跳ね除けるだろう。けれどクリストファー殿下が『ルーファスを抱け』と命じたなら、私はルーファス様がどれだけ嫌がろうと、押さえ込み欲望を、彼の中に注ぎ込むだろう。
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