マリウスと言います

2/6
78人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
   ***〈マリウス視点になります〉  僕の人生は、高等学院に入ったことで、もの凄く変わったと思う。というか、ルーファス様に出会ってからだ。  僕は、子爵家の末として生まれた。八人目となれば、存在感はあまりない。目立つ特徴を持っていなかったし、僕に似た兄弟は他にもいる。  僕は、兄弟で遊ぶよりも使用人に混じって、調理場にいるのが好きだった。結婚して家を出るまで、菓子作りに意欲を持っていた姉が、僕を可愛がってくれていたせいもある。一緒にクッキーをつくり、ケーキを作っては家族や使用人に喜んでもらうのが、一番の楽しみだった。  学院は、個人で使える調理器具なんておいていないから、週末ごとに家に帰り、お菓子を作る変わった学院生活を送った。家から歩いて学院にもどる途中で、お腹をすかせている子供達に、菓子をあげることもある。あくまで僕のは趣味だから、人に喜んでもらえることが、最高の報酬だった。  時折、路上生活をしている子供達に声を掛けている身なりのいい人を見かけた。子供達に「あれはだれ?」と聞いたら、「偉い人。おれたちに孤児院にいくように言うんだ。大人たちに、はくがい? されていないかとか、危ない人はいないかとか聞いてくるんだ」と言う。  この国は、性に緩いからか孤児も多い。その子達は、国が面倒をみるようになっているのだそうだ。孤児院は、僕もよくお菓子を運んでいたから知っているけれど、あんな身分の高そうな人が、子供達のことを心配しているとは思わなかった。彼に説得されて、孤児院に行く子供も多いのだそうだ。 「変な顔だろ?」  子供は、笑いながら失礼なことを言った。顔はいいのだけど。子供を相手にしているのに表情がない。普通の子供は怖がるだろう。ここの子達は、図太いから平気そうだが、僕でも緊張しそうだ。 「でもさ、いいやつなんだぜ」  子供は、まるで自分の友達のように褒めているから、きっと顔でははかれないものがあるのだろう。  それが、初めてエルフラン様を知った時のことだった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!