コイントスから始まる恋

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 それにしても、あのビンタは強烈だった。  くっきりと付いた手形を隠すように、人通りの少ない裏路地を歩いた。頬がヒリヒリと痛む。  何か冷やすものはないかと辺りを探すと、すぐに古びた商店の前で自販機を見つけた。缶ジュースでも頬に当てればいくらかはマシになるだろう。  これ幸いと長財布から500円硬貨を取り出して投入口へ押し込む。しかし、硬貨はカランと不機嫌な音を立てて返却口へ舞い戻った。ゆっくり入れてみても、上下を逆にしても、何度やっても返ってくる。 (馬鹿にしてらぁ。)  心の中で愚痴り、自販機の隣に置かれているベンチに腰掛けた。ため息を吐いて見上げた夕空には、初夏の訪れを告げるヒグラシの鳴声が弱々しく空気を揺らしている。  感傷に浸りながら、おもむろに空に向かって500円硬貨を弾いてみた。目線の少し上の高さまで上がり、重力に引かれて手元に落ちるコイン。それを左手の甲で受け止め、上から右手で覆い隠した。 (裏――)  右手を開いて確認する。桐のデザイン――表だ。 (今日はついてないや。)  無意識に左の頬を擦っていた。 (あいつ・・・)  「はっきりした理由を知りたい」などと言うから、はっきり伝えただけだ。それで怒るのなら最初から理由なんて聞かなければいい。
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