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「そもそも、別れるのに理由がいるのかよ。」
一人ごちた。もう一度コインを空に弾く。そして手で覆う。
「当たったら付き合う、外れたら別れる。」
付き合うも別れるも、理由なんてそんな程度で十分だ。と本気で思う。
(裏――)
しかし、現れたのは桐の花。今日は厄日なのかもしれない。
もう一度だ。コインは三度宙を舞った。
(今度こそ、裏――)
右手を開いて確認しようとした、そのときだった。
「表。」
不意打ちだった。
「えっ?」
「表に賭ける。」
いつのまにか目の前には同い年くらいの女性が立っていた。ジーパンにTシャツのラフな出で立ち。飾り気はないが、清潔感のある雰囲気には好感が持てる。しかし、その顔に見覚えはなかった。
想定外の状況で呆気にとられてしまったが、気を取り直してコイントスの結果を確認する。またもや表だ。
「やった。当たり!」
「おめでとう。」
彼女のノリに合わせて祝辞を贈る。そのついでに質問してみた。
「それで、何を賭けたの?」
「そっか!何を賭けるか決めてなかった。」
そう言って明るく笑う彼女を見て、心の曇りがほんの少し薄まっていくのを感じた。
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