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◇ ◇ ◇
今年の夏は特に暑かった。
それでも、二人はひと夏の恋人関係を楽しむべく毎日のように会う約束をした。
桜子は基本的にインドア派だ。だから、デートには映画館や水族館、お洒落なカフェにアウトレットモールを選んだ。彼女の部屋でゴロゴロしてテレビを観たり漫画を読んだりして過ごすこともしばしばあった。
幸福で満たされた時間。彼女と一緒にいて、彼女を見ているだけで幸せだった。ラストシーンに目を潤ます横顔も、深海生物の水槽を食い入るように見つめる後ろ姿も、ハートのラテアートに大喜びした笑顔も、洋服の値札を確認して悩み込む表情も、その全てが愛おしかった。
彼女のことを知れば知るほど、一層惹かれていく自分に気付いていた。
この夏、彼女について分かったこと――
歳は俺より一つ上。
外国語の短大を卒業して、今は訳があって家事手伝いをしている。
映画はアクションよりも恋愛系の方が好き。
アザラシよりもペンギン派。
コーヒーには砂糖2コ。ミルクはなし。
スカートはあまり穿かない。
お笑い番組が好き。クイズ番組はあまり見ない。
笑うとかわいい。
怒ると無口になる。
ときどき悲しい顔をする。
夢は雑貨屋を開くこと。
実家の商店を改装して海外から集めた雑貨を並べたいらしい――
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