コイントスから始まる恋

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 出会った日のことを思い出した。別れるのに理由はない、運命には逆らえない。あの日この場所で桜子はそう言っていた。 (それならば、運命に抗ってやろうじゃないか。) 「本当に今日ここで別れる運命なのかどうか、もう一度試してみないか。」  俺は500円硬貨を取り出して、真顔で訴えた。  空気が読めていないかもしれないし、しつこい男と嫌われるかもしれない。それは覚悟の上だ。桜子をまっすぐに見つめる。彼女の頬には大粒の涙が伝っていた。 「ここでそれに甘えたら、取り返しがつかなくなるかもしれない。」 「それも運命だよ。」 「私はあなたを傷つけるかもしれない。」 「そんなのは別れる理由にはならない。」  桜子は大きく深呼吸した。ハンカチで涙を拭う。そして、ハッキリした声で宣言した。 「表。表が出たら冬が来るまで一緒に過ごす。」 「冬が来るまで?」 「そう、それ以上は延長なし。」  きっぱりとした口調に押され、俺は頷くしかなかった。 「分かった。じゃあ行くよ。」  コインは熱を帯びて晩夏の夕空を舞った。
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