第1章

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 来るとき、丈一さんはだいたいよっぱらっていた。  こないだもお店に入ったとたん、  「静江ー」  ってどなって、あたしにもたれかかってきた。  あたしとこぞうさんでなんとかへやまで運んで、なんとかたたみベッドにねかせた。  あたしは着物っぽいデザインのドレスをきていた。丈がみじかくてすぐにパンツが見えちゃうので、動きづらい。  ここはへやもおふろもぜんぶインチキな和風で、女の子はみんな、かみをまっ黒で長くしてないといけない。お金持ちのおじいさんやセッタイのガイジンさんなんかが、お客さんのほとんどだからだ。女の子の名前も、りつ子とか小百合とかたまゑとかちょっとむかしっぽい。  でも、丈一さんまで静江ってよぶのはひどいって思った。あたしがえりすだって知ってるくせに。  こぞうさんが行ってしまうと、あたしは丈一さんの灰色の上着をぬがせてハンガーにかけ、くつやくつ下もぬがせて物入れにしまった。  「お水飲む?」  って聞いたら、うなずいたので冷ぞうこからボトルを出して持っていった。  「口で」  って丈一さんがいったので、あたしは水を口に入れてくちびるをくっつけようとした。  そしたら、丈一さんはいきなり起き上がってあたしのうでをきつくつかんだ。びっくりして口があいてぜんぶこぼしちゃった。  丈一さんは目をぎらぎらさせて、  「さっきまで、しわくちゃじじいのちんぽしゃぶってたんだろ。汚ねえな淫売」  あたしをベッドにつきたおした。  いたかったけど、あたしはすぐ起き上がって丈一さんの首にしがみついた。  「やめろ」  ほえるみたいにいって、丈一さんはあたしをはらいのけようとした。  けど、あたしは両手にもっと力をこめた。耳に口をつけて、  「丈一さん、だいじょうぶ、こわがらないでだいじょうぶだよ」  ってくりかえした。  まくらや灰皿や時計やあんどんやそのほかいろいろ、丈一さんはベッドのまわりのものをなげたりたおしたりしてあばれたけど、あたしはしがみついたままはなれなかった。  さんざんあばれて、丈一さんはとうとうベッドにたおれた。  ぐったりしずかになったのをよくたしかめてから、あたしはそうっと首をはなした。服をみんなぬがせて、むしタオルをとってきて、ていねいに体をふいた。
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