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気が付いたときには、綾瀬さんの細い手首を強く掴んでいた。
頭痛薬の箱が、綾瀬さんの膝に当たって、それからローテーブルの下をカラカラと転がった。
「なるほど、そうですよね。これも仕事なんですよね」
俺は俺自身を嘲笑う。
綾瀬さんは丸い瞳を大きく見開いて、俺の顔をじっと見つめてくる。
数十秒、いや数秒の間、俺たちの周りの空気がしんと止まった。
綾瀬さんは俺に掴まれている右手首に視線をずらし、それからもう一度、俺の顔を見た。
はっきりと困惑の表情を浮かべた彼女が、何か言おうと口を開いた。
それを制するように、俺は低い声で呟く。
「作家を支えるのが仕事って、どこまでのことをしてくれるんですか?」
質問の意味が理解できなかったのだろう、綾瀬さんの唇は止まったまま動かない。
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