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人差し指と中指で、綾瀬さんの耳をそっと触った。
それから耳の後ろからうなじにかけて、ゆっくりと指先を這わせる。
固まったまま動かない唇を親指で押さえたところで、彼女はようやく身動ぎして抵抗した。
構わず強引に、彼女の唇を自分のそれでふさいだ。
唇の隙間から息が漏れ、それさえも閉じ込めるように舌を入れた。
気の遠くなるような甘い味がして、彼女の柔らかい舌をさらに貪った。
止まらない。目眩がする。
綾瀬さんは身を固くして、俺の肩をちいさな手のひらで押し戻そうとする。
そっと唇を離すと、ぎゅっと目を閉じている綾瀬さんが視界に入った。
その目からは、今にも涙がこぼれ落ちそうになっている。
俺は唇の裏で呟いた。
こういうのを我慢して受け入れるのも、仕事ですか。
俺にくれる優しさも笑顔も全部、仕事だからですか、綾瀬さん。
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