story 8

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「すみません、今日はもう帰ってもらってもいいですか」 茜田先生は、大きな手で顔を多いながらそう言った。 何が何だか分からないが、とにかく早くここを立ち去らないと。 わたしはソファに立て掛けてあった自身の鞄を手繰り寄せ、それから立ち上がった。 よろめきながら黒いパンプスに足を入れ、震える指先でドアノブを掴む。 「あの‥‥、お大事に、してください」 薄暗くて静かな部屋に、かろうじて、小さな声でその言葉だけは残すことができた。
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