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いとおしそうに、愛でるように。
その指先を見て、胸がざわついた。
「主人公のひねくれたところが、またよくて。何て言ったらいいか‥‥」
綾瀬はそう言いながら、俺の原稿を優しく抱き締めた。
大切な大切な、宝物のように。
綾瀬の腕や胸は、とても柔らかそうで、俺の原稿は居心地良さそうに綾瀬の腕の中に収まっている。
何だろう、心臓のあたりが苦々しいような、ふわりと浮き上がったようなこの感じは。
今までに感じたことのない充足感が、体の内側に広がった。
授賞式、総文社との契約、今後の予定のすり合わせ。
それからは、転がるように日々が過ぎていった。
何度も総文社に足を運んだ。
その度に、綾瀬と名乗った編集者を探したが、その後会えることはなく、作品出版の日を迎えた。
自分でもよく分からないけど、あれ以来、重い喪失感に苛まれている。
もう一度、話がしたいのに。
どうしたら貴女に会えますか、綾瀬さん。
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