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しんと静まり返った部屋で、いつも通り原稿に向かう。
俺の動かす鉛筆の、かりかりという音だけが、部屋中を漂っては消えていく。
ふっと大きく息を吐き、俺はソファに頭を預けて天井を仰いだ。
集中できない。
ソファにかけてあった、随分前に綾瀬さんが忘れて帰ったストールが俺の目に止まった。
俺はそれにゆっくりと手を伸ばした。
淡いベージュの、ふわふわとしたストールを指の腹で撫でる。
俺の頭の中に、綾瀬さんの涙が落ちてきた。
どうして泣くんだろう。
どうして俺のところに来てくれないんだろう。
何を悩んでいるんだろう。
彼女の考えていることが、全然分からない。
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