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あの名刺には、名前と共に、綾瀬さん個人のメールアドレスが並んでいる。
いつも側で俺を助けてくれた、正直で嘘が吐けない、唯一の幼馴染。
圭介は、俺と目を合わせようとしない。
明らかにいつもと違うその様子に、頭痛がして瞼を閉じた。
もっと踏み込んで、確認するべきだと思った。
でも息苦しくなり、逃げるように席を立つ。
「じゃ、また。就活頑張って」
圭介のふわふわとした茶色い髪が僅かに揺れている。俯いたままの彼に向かって、そう言った。
圭介は僅かに顔を上げ、それから苦笑いとともに「お前も」と溢した。
これ以上追及することはできなかった。
震える心臓を抱えたまま、圭介に背を向けて歩き出す。
大事な人を失うかもしれない。
その事がこんなにも怖いなんて知らなかった。
早く貴女に会いたいです、綾瀬さん。
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