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「そうやって、もがき続けるしかないのよ。この仕事にゴールなんて無いから」
水元さんは独り言のようにそう言った。
もがき続ける。どんな仕事も軽々とこなしているように見える彼女も、そうなのだろうか。
未だに悩みながら、苦しみながら仕事をしているのだろうか。
わたしと同じように。
「作家の仕事も同じなのよ。綾瀬さん」
そう言われ、ずきりと胸が軋んだ。
水元さんの目尻に、柔らかな皺が入る。
「私が叩き直してあげるから、とにかく校正してみなさい。どんなに的外れな校正でも、その上から私の校正を入れるから、安心して」
不思議なもので、そう言われてしまうと悔しいという思いが込み上げてくる。
わたしはゆっくりと手を伸ばし、茜田先生の原稿を持ち上げた。
ずっしりと重くて、少しだけ指が震えた。
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