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ホラーじゃないものを書く、この提案はおそらく、水元さんから持ち掛けたんだろう。
わたしはそんな提案、きっとできなかった。
今のわたしの手では、おそらく茜田先生のプライドを引き出すことはできなかった。
自分のちっぽけな手のひらに目を落とし、それからぎゅっと拳を握った。
水元さんに、痛いほどに嫉妬している。
でもこの悔しさを、ちゃんと受け入れたいと思った。
もがき続けるしかない。作家の仕事も同じ。
そう言った水元さんの、憂いた瞳を思い出す。
茜田先生はあの頃からずっと走り続けているのに。
わたしは下を向いて立ち止まって、何をやっていたんだろう。
今度こそ逃げずに、しっかりと前を向いて。
いつかまた貴方の担当編集者になることを、もう一度夢見て。
わたしも貴方を追いかけて走り続けます、茜田先生。
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