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「校正原稿です。ご確認ください」
水元はそう言って、俺の目の前に、分厚い原稿をゆっくりと置いた。
自宅近くにあるいつものカフェ。平日の、まもなく夕方という時間帯だが、店内はそれなりに混雑していた。
向かいに座った水元を一瞥し、それから原稿に手を伸ばした。
「え‥‥」
俺の雑な走り書きの横に添えられた、見慣れた丸い、丁寧な文字。
綾瀬さんの字であることは、すぐに分かった。
「どうかしましたか」
水元は俺を真っ直ぐに見つめたまま、柔らかい声でそう言った。
「いえ」
両手で原稿を持ち上げ、軽く頭を下げる。
「ありがとうございます。すぐに確認します」
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