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俺の雑な字に、綾瀬さんの丁寧な文字が重なった原稿。
そのざらついた表面に顔を伏せ、深く息を吐き出した。
綾瀬さんは頼りないように見えて、とてもしっかりしている。
いつか彼女が言った通り、今は新しい作家の担当や、その他の仕事で忙しくしているのだろう。
作家としての俺のことを、充分に気にかけてくれていることはこの原稿を見れば明らかだ。
でも作家じゃない俺のことはどうだろう、とふと思う。
年明けに電話で話して以来、その宣言通り彼女からの連絡はない。
気を遣ってくれているのかもしれない、でも。
俺の連絡を待って泣いている彼女よりも、俺のことなんかすっかり忘れて、仕事に邁進している綾瀬さんの姿の方がずっとリアルに思い浮かぶ。
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