the last story

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「はぁ、暑すぎる」 三枝さんの気の抜けた声が、すぐ向こうから立ち上った。 こういう時に一番落ち着いているのはいつも、三枝さんだ。彼は街頭で配られた携帯電話会社のロゴが入った団扇を仰ぎながら、大きく後ろに反り返っている。 季節は9月。まだまだ夏の真っ只中で、冷房のよく効いた室内にいても、身体は夏の怠さを引き摺っているような気がする。 肝が据わっていて羨ましい、生まれつきそうなのだろうかと、三枝さんの跳ねた髪を見ながら考えていると、突然背後がざわめき始めた。 振り返ると、カウンターの向こうから古森課長が歩いてくる。相変わらずの猫背と、鋭い瞳。 不機嫌に見えるのはいつものことなのに、わたしの心臓は反射的にぎゅっと縮こまった。
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