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その場にいる社員全員の視線が、古森課長に集中した。
雑音が止み、室内の空気がぴんと貼り詰める。
古森課長自身は慣れたもので、例年のことと思っているのだろう、ゆったりとした所作で自席まで戻ってくる。
課長は片手で持っていた丸まった資料を挙げ、職場を見回し、「発表するぞ」と少しだけ枯れた声で言った。
わたしはすぐに腰を上げて、スケジュール帳を胸に抱き締めたまま、古森課長の席の方へと一歩足を踏み出す。
水元さんも、三枝さんでさえもが立ち上がり、姿勢を正して課長の方に少し固い視線を送っていた。
古森課長の唇が、もどかしい程にゆっくりと開く。
「今年の総文社大賞、受賞者は――――」
ーendー
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