1人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
「はぁ…」
二〇二〇年八月、世間は東京オリンピックの話題で持ちきりだった。昨日も誰かが金メダルを獲っただの世間はお祭り騒ぎだ。
そんな中、僕は今日の補習で使った本を図書室に戻しに来ていた。僕はこの春から高校教師として地元の高校で教壇に立っていた。教科は現代文。
昔から本を読むのが好きで、テストも現代文だけはとても良かった。
本当は小説家になりたかったのだが。ある事がきっかけで僕はその夢を諦めた。
「いつも真面目だねぇ」
図書室の司書さんが、僕のところにやって来た。白く染まった髪を一つに結んだ女性。歳は聞いたこと無いが多分定年はしているだろう。
「それだけが取り柄なので」
昔から何をやっても普通で、体力測定も真ん中のC、テストも現代文以外は全て平均点、特に悪さをするわけでもなく勉強はしっかりやっていた。周りからは真面目王と言うなんとも言えないあだ名までつけられたくらいだ。今となって思えば、本当にそれくらいしか特徴がなかったのだろう。
『君は本当に真面目だね』
ふと、ある少女の声が頭に響いた。
あぁ、そういえばあいつにもそんなこと言われたな……。
今頭に浮かんだ少女はもうこの世界にいない。彼女は原因不明の病で四年前の八月、僕たちが高校を卒業し大学に進学して向かえた初めての夏に亡くなった。
「今日か……」
八月七日。四年前のこの日、彼女はこの世を去った。
今日は彼女の命日だった。
開けっぱなしの窓から風邪が吹き付け、何冊かの本がパラパラとめくれた。
その窓から外を見ると、青く澄み渡る空の下。グラウンドで部活生が汗を滴ながら練習に励んでいた。
そのまま上を見上げ太陽を見つめた。日差しが強く思わず目を瞑ってしまった。
そういえばあの日も今日みたいな雲一つ無い青空だったな……。
最初のコメントを投稿しよう!