春のとまりを 知る人ぞなき

3/5
前へ
/7ページ
次へ
あの日から僕の頭の中では何度もあの景色が繰り返し流れている。一つ言っておくと決してスカートの中のことではない。もちろん思い返したこともあるが……。 何故かは分からない。でも、あの日のことを僕はふとした時に思い出していた。 「あんたいつまで横になってるの?今日入学式でしょ?」 僕が起き上がろうとした時、不機嫌そうな顔をした母がドアを開けた。 そんな母を見ることなく「今行くよ」と僕は頭を掻いた。 高校生になって迎えた二度目の春。暖かな日差しがアスファルトを照らし、爽やかな風が桜を舞い上げる。 あの日から一年過ぎ、彼女とはあれ以来一度も会っていない。同じ高校に通っているはずなのに一度も見かけもしない。やっぱり学年が違うのかな。 「お~っす」 そんなことを考えながら歩いていると背中に強い衝撃が走った。 「痛っ!? 陽菜……お前もうちょっと女らしくできたりしないの?」 僕が見上げた先に、一人の女が立っていた。そいつは茶色く染まった髪が春の優しい光を反射させ、ツンツンと尖った癖毛の輪郭を鮮明に映し出し、ベージュのセーターを巻いた腰に手を当て僕を見下していた。 「はぁ? 喧嘩売ってんの?」     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加