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今や二人の恋の話しは巷の女性達をうっとりと酔わせている。見目には劣るが愛らしく努力家な妃と、その妃を温かく見守り導く王の恋物語。秘められたお忍びデートは脚色がされ、その舞台でありキーとなったぬいぐるみは幸せな恋をもたらすと噂がたっている。
更に二人がこの店にウエディングベアーを頼んだ事から、そちらにも火がついた。
「それにしてもさ、こうなれば秘めた恋どころじゃないよね。デイジー様、自分たちの恋物語が舞台になって茹で蛸だよ」
「皆さん、恋愛話がお好きですからね」
苦笑したエリオットはベアーから兎のぬいぐるみへと視線を移していく。
ここは主に幼い子供用のぬいぐるみが置かれている一角。その為、店内でも多少余裕がある。他のぬいぐるみとは違い、服などは着ておらず、目も刺繍されている。子供が誤って口に入れてもいいよう、縫製も丁寧にされている品だ。
その分子供っぽい顔立ちをしているが、それがまた愛らしいと思っている。
手の中には迷った二つのぬいぐるみ。他を見てもやはりこれに戻ってくる。
一つは淡いグリーンに染めた柔らかな毛の兎のぬいぐるみ。そしてもう一つは柔らかなピンク色に染めた兎のぬいぐるみだ。
どちらにすべきか悩んでいると、不意に横合いから手が伸びてグリーンの兎を抱き上げる。隣りに並ぶオスカルが、小さく笑っている。
「こっちは僕から、ピンクはエリオットから。兎もお友達がいないときっと寂しいよ」
「オスカル……はい! そうですね」
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