綾崎さんのお兄さん①

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綾崎さんのお兄さん①

 綾崎さんの家は大学から歩いて10分ほどの場所にあった。住宅街の真ん中にあるよくある普通の一軒家だった。 「お邪魔します。」  家に入ると、リビングに案内してくれた。二階に綾崎さんの部屋とお兄さんの部屋があるようだ。綾崎さんはお兄さんを呼んでくると言って、私たちにリビングにあるソファに座って待っててくれと言って二階に上がっていった。私とジャスミンは言われたとおりに、ソファに座って綾崎さんとお兄さんが来るのを待っていた。 「綾崎さんのことはどれくらい知っているのですか。それと、どうやって彼女と親しくなったのですか。綾崎さんのこと、あんなに嫌いそうにしていたのに。」  ジャスミンがどれくらい綾崎さんと親しいのか知るために質問した。ジャスミンはううんと悩みながらも答えてくれた。 「別に対して知らないわよ。今まで同じ学部だったけど、同じ学部っていうだけで接点もあまりないし、初めて会話したのもぶつかってきたあの時でしょう。家族構成と、お兄さんがちょっと面倒くさいということくらいしか知らない。ああ、そうそう、どうして私と綾崎さんが仲良くなったのかを知りたいのね。それは彼女が蒼紗のことを………。」 「お待たせしました。やはり、私の言葉には兄は耳を傾けてくれそうにありません。せっかく来てくれたので、少し私と話をしませんか。兄は二階にいるので、話が終わったら、ダメ元でもう一度説得しますので。」  二階から戻ってきて、その後にキッチンに寄っていたのだろう。綾崎さんは、人数分の紅茶とおいしそうなクッキーやビスケット、マドレーヌにフィナンシェなどが載っていたトレイをもって現れた。  ありがたくいただくことにして、食べながら話を聞くことにした。 「何から話していきましょうか。」 「じゃあ、手始めに自己紹介からにしましょう。それから綾崎さんのお兄さんについて教えてもらいましょう。」  大学に入ってすでに半年以上たつのに今さら自己紹介もなんだか変な感じだがまあ、しておいても別に減るものではない。自己紹介から始めることになった。 「私の名前は朔夜蒼紗。皆さんと同じ学部です。」  自己紹介といっても、大して話すことはないことに気が付いた。綾崎さんは能力者について知らないので、わざわざ知らせることもないだろう。よって、これで私の紹介は終わりだ。 「蒼紗ったら面倒くさがりなんだから。それがまたたまらない魅力でもあるけど。次は私の番ね。佐藤蛇須美。同じく蒼紗と同じ学部の一年生。好きな人は蒼紗。蒼紗のまねしてコスプレにはまっています。」  どうでもいい情報である。私のことが好きだったとは知らなかった。いや、うすうす気づいてはいたので、認めよう。面倒くさいだけである。 「ええと、私の名前は綾崎麗菜。お二人と同じ学部の1年生です。兄がいます。」  何とも盛り上がらない自己紹介になってしまった。 「まあ、この面子で自己紹介したらこんなものでしょ。じゃあ、さっそく本題に入りましょうか。」  ジャスミンが仕切っているが、特に問題ないと思うので、そのまま任せることにした。 「さっそくだけど、お兄さんの様子はどんな感じ?」 「かなり落ち込んでいるみたいです。兄は私と5歳離れているんですけど、元々やんちゃな性格で、高校卒業後は仕事につかずにいわゆるフリーターでした。でも、別に非行に走るといったこともなくて、一応バイトもしていたので親も厳しくは叱りませんでした。」  5歳年上ということは今、23歳ということか。そんな普通の青年がどうして今回の事件の共犯になってしまったのだろうか。 「それが変化したのは今年に入ってからでした。夏くらいから、バイトも入っていないのに急に帰りが深夜になって、帰ってきたらきたでやたらとテンションが高く興奮していて、とても驚きました。今思えば、すでにそのころから何か危ないことに足を突っ込んでいたのかもしれません。もっと早くに気付いていればよかった……。でも、本当に兄が死神関連の事件を起こしていたとは思えないのです。どうして、兄が………。」  綾崎さんのお兄さんのことはなんとなくわかってきた。問題は伴坂がどうやって綾崎さんのお兄さんと接触したかということだ。 「まどろっこしいことはやめて、本人に理由を聞いてみればいいんじゃないかしら。幸い、私も蒼紗も他人から情報を聞き出すのにうってつけな才能を持っているでしょう。今こそ、それを大いに役立たせるべきよ。」  ジャスミンの言う通りである。綾崎さんの話から分かることには限度がある、やはりここは本人に正直に話してもらうことが一番だ。綾崎さんにお願いしてお兄さんに会わせてもらうことにした。    机の上に置かれたお菓子はきれいに平らげてしまった。どれもおいしくてついつい手が進んでしまった。綾崎さんは不安そうな顔をしていたが、私たちの言葉に頷くと、二階に上がってお兄さんを呼びに行った。      さて、これで真実が少し見えてくる。少しわくわくしてきた。もちろん、自分から正直に話してくれるに越したことはないが、いざとなったらジャスミンと私の能力を使えばいいだけのことだ。    時間だけが過ぎていく。二階に上がった綾崎さんは全然降りてくる気配がない。そう簡単に話を聞こうと思うのが無理なようだ。ジャスミンと目配せしてみると、彼女も同じことを考えていたようだ。二人で一つ頷くと、私たちも二階に上がった。  二階の部屋の前には綾崎さんがいて、懸命にドア越しに話がしたいと訴えていた。一筋縄ではいかないようだ。 「仕方がありませんね。」 「もしかして、もう能力を使うの。でも、そんなことをしなくてもいい方法があるわよ。」  ジャスミンは能力を使わずにお兄さんを部屋から出す方法を見つけたようだ。  突然、前ふりもなく、部屋のドアを思いきり蹴飛ばすジャスミン。ドアが壊れそうなほど大きな音を立てた。何度も蹴飛ばしていた。同時に大声で部屋に向かって叫んだ。 「あっ。この家の前に死神が通りかかりましたよ。誰に用事があるんでしょうねえ。」
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