綾崎玲音

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綾崎玲音

 玲音は昔から特にやりたいことがなく、ただ毎日をつまらないものだと過ごしていた。容姿だけはイケメンだったので、モデルのスカウトなどには誘われたことがあるが、自分の容姿が嫌いだった玲音は断っていた。  イケメンだったので、学生時代は女子からモテモテだった。寄ってくる女子たちの相手をしたり、男子と遊んだりとそれなりに他人から見たら充実した生活を送っていた。  高校卒業後、大学に行く気がなかった玲音は就職した会社に勤め始めた。働き出して社会人になっても、つまらない日々は続いた。  たまたま仕事でミスをして上司に叱られた時に、玲音の中で何かがはじける音がした。自分でも何なのかわからずに、それが原因で仕事を辞めてしまった。  それ以降、定職もつかずにバイトをしつつ適当に実家で生活をしていた時だった。そこで玲音は運命を変える出会いをしたのだった。    ある日、コンビニのバイトが終わり、帰宅しようと道を歩いていると、一人の少年に声をかけられた。 「主に面白いことを授けよう、今から言う日時にそこに行けば、退屈な人生が変わるかもしれない。」  日時と場所を伝えるだけ伝えて、少年はどこかに去っていった。そこに行くと何が起きるのか、何が始まるのか、何が変わるのか、何もわからずじまいだった。追いかけようとしたが、すぐに姿は見えなくなった。  どうせ、何をしてもつまらないならと、玲音は少年のいうことに従うことにした。玲音は指定された場所を訪れた。指定された日の深夜、玲音がバイトしていたコンビニ近くにある公園で出会ったのが、遠坂だった。    遠坂は、公園で一人、退屈そうにベンチに座っていた。自分と同じようにつまらない人生を送っていそうだと思った玲音は思わず、声をかけてしまった。 「すいません。こんな時間にここで何をしているのですか。ここに中学生くらいの少年を見かけませんでしたか。」 「私が見えるというのか。それはありえないが、いや、あの神が何か細工をした可能性もある。まさか本当に私にうってつけの能力者を連れてきていたとしたら、どうするのが得策か……。」  遠坂は何か考えるようなそぶりを見せたが、すぐに玲音の質問に答えた。 「少年なら来ていない。おそらく、私と君を合わせようとしたのだろう。私は遠坂。せっかく出会えたのだから、少し話をしましょう。」  そこで、初めて自分が能力者であることを教えられた。世の中には能力者という存在がいることを聞かされた。  玲音の能力は相手の皮膚に触れると、生気を吸うことができるもので、さらにその時に相手の記憶をのぞくことも可能のようだと最初に説明された。  自分にそんな特殊能力が備わっていることを知らなかった玲音は、遠坂が冗談を言い出したのかと疑った。見ず知らずの人間に突然、中二病全開の話をされても戸惑うばかりである。 「信じていないようですね。信じてもらう方が無理がある話だとは思います。しかし、これは本当のことであり、事実なのですよ。信じていただけるように一つ、実験をしてみましょう。」    遠坂と玲音はそれから、深夜に二人で集まるようになった。そして、遠坂の言うことが本当だということが証明された。 「では、まずは今から出会う人に能力を使ってみましょう。イメージしてください。自分は能力者であり、相手の生気を吸うことができる。すった相手の記憶をのぞくことも可能であることを。」  遠坂に言われたとおりに、たまたま目の前を通りかかった若い女性に目をつける。偶然をよそおい、女性に倒れこむように接触する。  そして、一気に腕をつかんだ。    しかし、女性は痛がるだけだった。倒れるそぶりも見せないし、記憶ものぞくことはできなかった。 「キスでもしてみたらいいのではないですかねえ。」  背後で遠坂がアドバイスする。若い女性は必死に玲音がつかんでいる腕を引き離そうとしていた。顔を観察すると、なかなか玲音好みのかわいらしい顔をしていた。    迷わず、女性の唇にキスをした。  能力を意識していないにも関わらず、彼女の生命力が自分に流れ込んでくる気がした。同時に彼女の記憶が頭の中に流れ込んできた。  彼女が今日ここを歩いていたのは、彼氏に振られた悲しみを忘れようと居酒屋をはしごしていた帰りだったこと、彼氏は浮気をしていたことなどがリアルに映像として頭に流れてきた。 「ドサッ。」  女性から力が抜けたことに気付いた。気を失ってしまっているようだ。顔色も悪く、まるで死人のように真っ青になっている。  女性を抱きかかえたまま、放心状態になってしまった。頭がぼおっとして、何も考えることができない。ただ、気持ちがよかったことだけはわかった。 「能力は無事開花できたようで何よりです。彼女からはいったい何を見ることができましたか。」 「これが俺の能力……。」  遠坂の質問には無視して、玲音は考える。この能力を使えば、もしかしたら人生を変えられるかもしれない。  意識が正常に戻ってきた玲音は自分の覗き見た彼女の記憶を詳しく話すことにした。遠坂は大いに喜び興奮していた。    その後もなぜか遠坂と一緒に深夜の町を行動することになった。そこで、いろいろな人の記憶をのぞくのが楽しくなってしまった。遠坂も自分が他人の記憶を話すのを面白そうに聞いているので、ついやめられなくなってしまった。  しかし、記憶を見る代償として、他人の生気を吸っているので、被害者が出た。ニュースで放送されるようになると、さすがに玲音は心配になった。捕まったら今までの生活が一気に終わってしまう。遠坂に相談したが、彼は自分が死神だと自信ありげにいうだけで、玲音がどうなろうと構わないという態度だった。      私の能力を使わずして、彼はいろいろ語ってくれた。 「話してくれてありがとうございました。では、私たちはこれで失礼します。」  私が席を立つと、ジャスミンも一緒に席を立つ。玲音は私たちのことを聞きたそうにしていたが、話す必要もないので無視することにした。時間はちょうど一時間が経過するところだった。 「なんだか、綾崎さんのお兄さん、あんまり似ていなかったわね。」 「いえ、なんだか雰囲気が似ていましたよ。意外に真面目なところとかは遺伝だと思いますよ。」  綾崎さんの家を出て、帰り道にジャスミンと語り合う。玲音は遠坂に会いたがっていたが、それはなかなか難しいだろう。しかし、真相解明には遠坂にも話を聞く必要がある。    彼が出会ったという中学生くらいの少年のことが気になった。いったい、どれだけあの神様は私の周りで面倒事を起こすつもりだろうか。
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