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1.奏多と向日葵
「奏多、大きくって新しいお家に行くわよー」
大山奏多は、とある町への引っ越しを迫られていた。
「転校なんてやだよ」
奏多は、ぷいっと唇を尖らせてそっぽを向いた。奏多の母、美琴は仕方ない、と開き直って作戦を変更する。
「奏多、お父さんのお仕事だから、し、か、た、な、い、の!」
腕組みをし、大人の圧力で美琴は奏多に迫った。
「じゃあ、お父さんが単身赴任すればいいのに」
ぐっ。近頃の七歳は学校でそんなことも覚えてくるのか……。
奏多は最後まで抵抗を見せたが、美琴は奏多が好きな電車やタクシーを駆使しながら、なんとか新居まで奏多を運んだ。
「おお、マンションよりやっぱ一戸建てだな」
奏多の父、壮介は美琴の苦労もどこ吹く風。新たな住まいとなる一戸建てにご満悦だった。
「お隣さんはその倍の豪邸だけどね」
美琴が指差した先には、大山家の倍以上ありそうな豪邸がそびえ立っている。
家族三人で菓子折を持って挨拶に行くと、拍子抜けするくらい穏やかな母子が出迎えてくれた。
「まあ、ご丁寧にありがとうございます。あら、お子様おいくつですか?」
細身で優しそうなそのお母さんは、奏多を見て訊ねた。
「ほら、奏多。何歳ですかって」
美琴が奏多の背中を強引に押す。
「……七歳です」
「あら、じゃあひまわりと一緒ね!」
そのお母さんが振り向くと、隠れるようにこちらを窺っていた女の子が、こくりとだけ頷き、ぎこちなく笑った。
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