SS編集者、高砂良一郎のひとり言

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「と、言うわけで先生、今一度、考えて頂けませんか?」 いつもの古本屋に来て先生に再度交渉する。 どうやら、彼女はいないらしい。 「そうは言ってもさ、叶が、一生懸命相談所やってる訳だよ。なのに俺が連載でお悩み相談みたいなのやりだしたらさ、叶に悪いじゃん。あいつ、今も依頼者と打ち合わせで出掛けてんだよね。」 「打ち合わせ?」 「何か、依頼者が告白するらしくて、ついてってやってんだよ。ったく、人が良いよな?まぁ、そこがあいつの良いところなんだけどさ。」 はあ…… このご時世に今や出せばミリオン当たり前の作家、神戸瑞希も彼女にかかれば、ただの男って訳か…… 「そうでしたか。では、何か違う形での新連載していただけるよう、後日、企画をいくつかお持ちしますのでご検討いただけますでしょうか。」 「ほいよ。って、あれだろ?最近、異動してきたアマゾネスだろ?」 「アマゾネス?」 「編集長だよ、この前、出版記念のパーティー開場で会ったよ。丁寧に挨拶してくれたけどさ、今にも噛みつかれそうな雰囲気でビビったの、なんのって。まぁ、綺麗な人なんだけどね。」 想像出来るな。 確かに編集長は肉食だ。 「ええ、一度言い出したら中々引かない人で困ってます。」 「高砂さんを困らせる貴重な存在だね。けれどそういったのに限ってどうなるかわかんないのが男と女の面白さだよな。」 先生の笑えない冗談に苦笑いを返しておいた。 結局、その後も恋愛相談の話は進展することもなく俺は手ぶらで社に戻らなければならなかった。
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