第6章

38/56
283人が本棚に入れています
本棚に追加
/701ページ
 空になったアルミ缶が、時間とともに増え、3人の口数も段々重くなり、一方通行の言葉が行き交う様になっていた。  温子は基本的にアルコールは飲めないと言ってはいるが、飲めないのでは無い。  アルコール自体を好んで飲もうとしない、いわばアルコールは嫌いなのだ。  しかし、大学に入り学生達との付き合い方にアルコールは付き物であった。  今まで未成年と言うこともあり、成人したらお酒を飲んでみようと言う気持は全く無かった。  そんな意識の中で大学生活を謳歌していた際でも、機会がある毎に、仲間に誘われながらも口に入れる事は無かった  ウーロン茶でも付き合える仲間に恵まれているのかも知れない。  しかし、初めてお酒は初体験であった。  コップ半分が、自分自身で無いようなしどろもどろする、俗に言う酔いが回る事と言う、大人が使う言葉を身にしみて感じていた。  叔母のたか子の居酒屋を手伝い、母のひろ子もそこで働いているにも関わらず、アルコールが、売りの商売を幼いときから見ていた筈なのに…  どうして、毛嫌いになったのが原因は分からない。  ひろ子も付き合い程度のアルコールは口に入れていたことは知ってはいたが、浴びるほど自分を見失うほどの醜態を一度も見たことは無かった。  仕事上、やもえず、付き合いのビールを飲んでいると言った方が良いのかも知れない。  おぼろげに母の顔が浮かんでいた。  3人で飲んでいくにも関わらず寂しさなんて思わないこの時間に思い出す母の顔は、やはり笑顔であった。  (お母さん! うれしいの? そうだよ、私が受け入れて貰える人達と、今日はご無礼こうで、初めてお酒を飲んで酔ってしまったみたいよ。 今日はこんな私の姿を見ない振りしてね)  泣き上戸?  何故か、目頭が熱くなっていた。  悲しいのでは無い!  ワイワイするほどハイテンションでは無い!  不思議な涙もあるのだと知る。  酒を飲んだと叫ぶたいほど、今日は飲んでいた。  コップ一杯程のビールが喉を潤している。  けっして、お酒が嫌いでは無いのだと酔いに任せていた。        
/701ページ

最初のコメントを投稿しよう!