第6章

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 「私ね、話したい事があるの。後で分かることだから隠してもしょうが無い事よね。 折角誘ってくれたのに、私的な事で…」  向かい側に座っている仁科は、ユックリと落ち着いた口調で目元は穏やかな笑みが見られた。  (信頼できる仁科君に知って貰いたい)  望美は返ってくる言葉を静かに待っていた。  「大丈夫だから! 言ってごらん。 どんなことでも受け入れたいよ」  望美は静かに頷いて見せた。  「有難う。 私は今まで父親の存在を知りたいと思わないで生きてきたの。 今となっては知ろうと思う環境の中に居なかった気がする」  コップの中の氷は既(すで)に溶け温めになった水を一口含んで、又喋りが始めた。  慎重な趣(おもむき)ある顔で聞いている。  「お母さんが亡くなり、気晴らしに叔母が買い物に誘われて行った先で父と会ったの。 その時は父だとは知らずに、叔母の知り合いなのかと思って…」  一息ついた望美は仁科の顔をジッと見つめて、又言い始めた。  「そのうち、叔母から父に連絡して、その後、自宅に招かれ一緒にお食事をしたの… 招かれた父の自宅のあまりの豪華さにビックリしてしまって、父親だとは思うけど、あまりの生活の格差に唖然としてしまったわ」  今まで聞いて仁科が望美の話を聞き返した。  「生活の格差?」  「ん、ん~ 仁科君の生活レベルは、きっと父と同じかも知れないわね。 だ、から、説明しても分かりにくいかも知れない」  「じゃぁ~ 例えば建物とか、都会で一般の都民が住居を構える敷地面積とか?」  「ウン! それもあるわね。 私ね…母と2部屋に僅かな面積のキッチンのアパートでの生活からは想像もしてないくらいだったの。 私の親友の自宅も凄いと思ったけど! でもそれ以上に見るもの全てが別世界に住んでいるん人なんだと、あらためて知らされた気がして! で、も、羨ましいなんて思わないのが不思議なのよ。 きっと父の私に対しての接し方が人柄に出ているようで…私が引け目を感じさせないように配慮と言うか…気配りと言うか」  「ウン! そっかー そんなことが近況にあったんだね。 都会でその様な広い土地を所有しているって凄いね。 当然、資産があるだろうから、それなりの職業に従事してないと、土地を所有する管理も経済的にも恵まれてないと維持出来ないだろうし。 お仕事はなにをしている人かな?」  
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