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「お父さんはお父さん。 私は父親の無い中で育ってきたから、今此処にいるのは、その父親の居なかった北村望美! ただそれだけ」
自分に言い聞かせるような口調の望美前に、仁科は心を揺さぶられた。
(そうだよね。 今凄い人である父親の出現であっても、北村にはさほど関係ないんだ。僕が動揺する必要なんて無い。 それを在らぬ先入観を持ちながら、会話をする僕に気分的にいい気持ちはしないよね)
真っ直ぐ見つめ直し、ありのままの望美の話を聞こうと思い、それを伝えたいと思った。
「仁科! たしかにそうだね。 君の言うとおりだよ。 君は君だ! 例え偉大な父親の出現でも、僕自身には関係ないこと。 それを立ち入り分かりもしない親子関係を、植え付ける様な事を言う僕は反省為なければいけない。 申し訳ない」
口角を上げて笑っているように見えたが、望美の目は決して笑っていなかった。
(笑って聞いてくれたのでは無い! 目が笑ってはいない。 そのくらい望美を心外させたのだろう)
「もう、この話は終わりましょう。 私も急に慌ただしかったから、心の整理をしたつもりでも、直ぐには出来てなかった事を知ったので、ユックリと状況を踏まえていこうと思う」
話を終えた直ぐに望美のスマホの着信音が流れた。
ユックリした動作の手付きは、キッと親しい人なのかと仁科は見ていた。
「今出先なの。 連絡しないでごめん。 忙しくて。 忘れた訳では無いの。 後でユックリと会いたいと思っていたから…あ、そぉ、えっーーそんな今から。 アパートに直に? 良いけど少し遅くなるかもよ。 2人で? えっーー 健二さんも一緒に? 取りあえず早めに行くようにするから。 電車よ! 分かったから。 ハイ! じゃぁー」
やはり、親しい人からなんだ!
顔がほころび、今でもカフェから走って行きそうな中腰をしているように見えた。
「長々とごめんね。 予定が急に入ってしまって。 もうすぐしたらお店を出なければいけなくなってしまって! 折角誘ってくれたのにごめん」
申し訳ない無さそうな顔付きで、頭を何度も下げていた。
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