第6章

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 いつもの慣れた電車の吊り輪に手を掛けて、街のネオンを見ながら、忘れてしまいそうになっているスマホからラインで雪菜に送った。  もう少しでアパート前に2人は着くという。  それにしても急な訪問でアパートの冷蔵庫には、飲料水なる物を切らしていた。  甘味料や炭酸が多く含まれている飲料水は、幼いときから苦手であった。  口に含んだ後味の悪い甘さが好みでは無かった。  小さい当時、好んで飲んでいる麦茶を、叔母のたか子の店に来ているお客は、よくからかわれていたことを思い出していた。  「ノンチャンは良い子だね。 今時の子どもは美味しいジュースをねだるのに、お店にある麦茶を飲み偉いよ」  何故褒められるのか?望美には理解できなかった。  今考えると、褒めてくれるより、体に良いお茶を飲んでるねと、言われていた方が良かった。  たわいも無い昔のことを思い出し、一人でに笑ってしまう顔が車窓に映っていた。  バス停の隣にはコンビニが在る。  そこで何か買い物をしていくことにした。  夜道も慣れた、いつものアパート迄の道程も、もう少しで通うことはないと思うと、何故が寂しさを感じながらアパート前に着いた。  雪菜の健二の愛車が見えた。  暫くぶりの2人に、小走りに駈け寄った。  運転席には車の中から片手で挨拶する健二がいた。  助手席には、いつもの笑顔の雪菜が居る。  同時に2人は車から出てきた。  雪菜は望美に抱き付き肩をトントンする。  脇で健二は、声を掛けた。  「夜分にごめんね。 如何しても会って顔を見たいから押し掛けてしまい、悪かったね」  「そんな! 私も近々会いたいと思っていたの。 それより待ったでしょ? ごめん!」  「ノン! 久しぶりね。 私も何かと忙しくて、ラインではお互いの近況は知ってはいたけど、それでもこの所、我が家との関わりがあることを知ったわ。 素知らぬふりは出来ないでしょ? 事実を受け止めないと…」  「こんな所では…上がってお茶でも? お酒でも? ねっ?」  「オレたちも買ってきたんだよ。 ちょっとした軽食にお酒のつまみ? ほら?」  スーパー袋に四袋も…  (飲む予定かも? で、も、着心地知れてる2人なら嬉しい訪問者よね)  今までの気苦労や、色んな事が重なり、2人の元気な姿に後押しされたようで、知らぬ間に涙が溢れてきていた。  「嬉しかったのね? 涙が出るくらい嬉しいのぉ? 相変わらずねっ、ノンは! 美貌と才女を持ち合わせたノンは、これだから私は好きなのよねぇー 人間味があるから。 優しいんだからノンは」    
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