第6章

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 「ノンの部屋に入るのは暫くぶりよね。 あっ忘れてはいけないんだ。 ほらぁ、お兄様、おば様にお供え物を上げなくちゃ」  雪菜に先導され、健二は手持ちの果物の盛り合わさ籠を、デパートのお洒落な袋から取り出した。  「おば様、忙しさにかこつけて、お邪魔するのが遅くなりました。 ごめんなさい」  2人は仏壇の前に座り、両手を合わせて合掌した。  望美はコップに氷を入れ、コンビニで買ってきた天然果汁の炭酸水を注いで、2人の座っているテーブルに運んだ。  「ごめんね。 買い置きの食べ物が冷蔵庫に入って無くって。 とりあえず、冷たい飲み物をどうぞ」  「わあっー この季節の喉の渇きには、豊富な果実の炭酸が美味しいわねぇ~ 最高」   雪菜は、いつもの感動詞の使い方が非常に上手である。  人は素敵な感動した言葉を聞いて、嫌な気持にはならないことを知ってか、知らぬか、お嬢様育ちの良さがそれに表れている。  そんな嫌みの無い雪菜を羨ましいと思うことがある。  自由に自分の気持を素直に言う事が出来ない望美には、真似をする事が出来ない事への、羨ましい気持は時にはあると、ふと、雪菜の屈託の無い笑顔を見ながら思っていた。  「ホイ! 雪菜。 望美ちゃんにビールを…」  健二から手渡されたビールを雪菜が望美の手元に差し出した。  「望美ちゃん、 残りのビールは冷蔵庫に入れといた方が良いよ。 冷めたら美味しく無いから」  男の人でも稀な気配りをする健二に、女である望美はいつも気が引けてしまう。  望美は人との付き合いに気配りを為ないわけではない。  逆にする方である。    この様に相手の事を思いながらする事が 人への気遣いである健二の魅力なのかもしれない。  日本人は特にその様な事を重視するところがある。  「おつまみも雪菜、望美ちゃんから聞いて器を貰ってきて」  「ハイ、ハイ! お兄様」  ふたりの会話を背に台所に行った。  「さぁー これで立つことは無いわよね? お兄様 じゃぁー乾杯しましょうか?」
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