第6章

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 大学の話に雪菜と望美は思いっ切り話し込んでいた。  脇にいる健二は、ふたりの話を聞きながらノンビリとビールを片手に微笑んで聞いている。  母、ひろ子が亡くなった後の事を、2人は快く助けて貰った事を思い出し、あらためてお礼の言葉を言った。  「ノン、 前にもお礼の言葉を聞いたから、もう良いわよ。 ねぇ~ お兄様。 あの時私達は出来ることはしてあげたいと思ったし、私達のお父様もその様にしてあげなさいと言われたの。 当たり前の事をしてあげたと思ってるわよ」  雪菜に言われて、この場で今の自分の状況を言おうとした。  静かに静観していた健二がフタリノ顔を見ながら伝えた。  「僕はね、 実は今だから言えるけど、望美ちゃんの事が好きだったんだ。 本当に! 家族には名前を言わなかったけど、親父は僕に好きな人がいたら、家に連れてきなさいと言われていたんだ。 でもそこまでいかなくて良かったと言うか? その様になっていたんだね。 僕ね、暫くは立ち直れなかったよ」  健二の言う意味を2人は理解した。  特に家族には知られてない健二の恋心をいち早く気付いたのは、雪菜であった。  「ノン! 言っている意味が分かるわよね。 私達望美には姪と甥にあたることを知ったときには、口を閉じること忘れるほどビックリしたの。 冗談にも笑えない現実に戻るには数日間掛かったわ。 でもねぇー 私達は現実を受け止めることにしたのよ。」  雪菜にしては、珍しいくらい神妙な声であった。  望美は勿論、健太郎に関わる人達には、予想すら出来ないほどの衝撃的な事であったろう。  「そうなの…お兄様は数日間食事も喉に通らず落ち込みようは、端から見て気の毒さえ思えたわ」    えっ…そんな…!  (私を好き? 初耳だ。 たしかに親友の兄としての立場を超えて、色々労り、優しくされてるとは思っていたけど、それは人道的立場の医者としての職業からくるものだと思っていた。 ま、さ、かのまさかだなんて。 全く思いもしなかった)  聞いたことに返す言葉は無かった。  どの様な言葉を返せばいいか?  黙って俯いたままに聞くしか無かった。  優しい眼差しで健二の顔を見てあげれない自分の気持が、其処にあった。  察したのか、健二は張りのあるいつもの元気な声で、話を続けた。  アルコールを飲んでいるためか、スラスラ喋るだけでもこの場を繕うには良かった気がした。  「オレの話を静かに黙って聞いて貰いありがとうね、望美ちゃん。 告白したら気が楽になった。 現実には好きでもどうしようも無いことぐらい、分かるって! だから、これからは若い美人のおば様?」  ビールをグイグイと飲んでいた雪菜が、話に突っ込みを入れた。  「おば様? たしかにこれからは戸籍上おば様なんだけど、この際、無視しておば様の意識を無くしちゃいましよ? 今迄通りノンはノン! そうしましょうよ。 お爺さまには悪いけど」  クスクス笑いながら、又ビールを片手に飲んでいる姿は、屈託のない、その素の雪菜の言葉に救われた。  
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